肛門外科とは
肛門付近に疾患のある方、もしくは肛門周りに関するお悩みを持つ方を対象にしているのが肛門外科です。主に肛門の痛み、かゆみ、出血、できものなどについて診察・治療を行います。
なお当診療科を訪れる方の中では、痔の患者様が最も多く、一口に痔と言いましてもタイプは様々で、痔核(イボ痔:内痔核、外痔核)、裂肛(切れ痔)、あな痔(痔瘻)などがあり、診察の結果、必要と判断した場合は痔の日帰り手術も行っています。
痔につきましては決して珍しい病気ではなく、3人に1人ほどの割合で罹患しているとも言われています。発症場所が肛門周囲であることから、打ち明けにくいということもあるかと思われますが、痔の症状には直腸がんや肛門がんなど、重篤な病気が隠されていることもあります。そのため、決して恥ずかしがらず、勇気を出してご相談ください。
痔以外にも、肛門周囲皮膚炎や肛門ポリープ、肛門皮垂(スキンタグ)、鼠経ヘルニア、下肢静脈瘤なども診療します。
当クリニックの肛門外科でみる代表的な疾患
いぼ痔(内痔核、外痔核)
いぼ痔とは
肛門付近の血流が悪くなることで鬱血をきたし、さらに静脈がこぶ状に膨らんでしまった状態がいぼ痔(痔核)で、痔の中で最も患者様の多い疾患です。いぼ痔は発症場所によって、内痔核と外痔核に分けられます。
内痔核について
内痔核とは、肛門の歯状線(直腸と肛門の境)より内側に生じたいぼ痔です。初期の症状は出血する程度で、痛みをほぼ感じないまま進行していきます。さらに内痔核が大きくなると、脱出(脱肛)するようになります。内痔核の発症要因としては、便秘や長時間による座り仕事、排便時のいきみが強いといったことが挙げられています。
発症して間もない頃は、内痔核が歯状線から脱出をしていても指で押し込めば戻りますが、さらに進行すると戻らなくなり、痛みが伴うこともあります。なお、内痔核は進行具合に応じて、以下のように4つのタイプに分類されます。
内痔核の分類(「ゴリガー分類」による)
1度 | 排便時に肛門管内に膨らんでくる程度の痔核 |
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2度 | 排便時に肛門外に脱出するものの、排便が済めば自然に戻る程度の痔核 |
3度 | 排便時に脱出し、指で押し込まないと戻らない痔核 |
4度 | 常に肛門外に脱出している痔核 |
内痔核の治療法について
内痔核の治療には保存療法と手術療法のほか、その中間にあたるとされる外科的治療として硬化療法(ジオン注射硬化療法)があります。当クリニックでは、保存療法だけでは改善が難しい場合に、ジオン硬化療法(ALTA)を行います。当院で行う内痔核の主な治療法は以下の通り。
- 保存療法
- 規則正しい排便習慣(便秘の改善や排便時の長時間のいきみを避ける)をつけるようにするのが一番の治療法になります。症状によっては経口薬や注入軟膏・坐薬を使用します。お風呂に入って温めるのも効果的です。
- 硬化療法(保存療法と手術療法の中間の外科的治療)
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ジオン注射硬化療法(ALTA)当クリニックの院長は大腸肛門病学会の専門医で、2008年からジオン注射硬化療法の治療経験があります。最新の硬化療法で、投与の前に肛門周囲へ局所麻酔を行ないます。そして脱出も見られる内痔核に対してジオン注という注射を患部とその周囲に注入します。これにより痔を養っている栄養血管の血流量を減らし、さらに痔の中の血管を硬くして、弛んでしまった直腸粘膜部に癒着・固定させることが可能になります。
ジオン注の登場で、今までなら手術でしか治せなかった進行した内痔核であっても治療効果が期待できるようになりました。なお施術では、肛門の痛みを感じない部分に注射しますので、痛みも少なくて済みます。局所麻酔下で行いますので、日帰りによる治療が可能です。 - 手術療法
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結紮切除術脱出しているいぼ痔を、根元から専用の器具を用いて切っていく施術です。具体的には、内痔核に侵入している動脈を縛り、内痔核とその周辺の皮膚を含めて切除します。切除後は切った部分は縫合します。手術時間は15分程度です。なお、手術後は強い痛みが出ますので、鎮痛剤を処方いたします。
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PPH(procedure for prolapse and hemorrhoids)法PPHと呼ばれる自動吻合器を用いての痔核根治術で、直腸の粘膜3~4cmをPPHでドーナツ状に切除・縫合します。これは奥からの血流を遮断し、肛門から脱出したいぼ痔をつり上げる効果があります。なお直腸の粘膜には痛みを感じる神経が無いので、切除・縫合を行っても痛みは伴いません。手術は短時間で終了します。
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ハイブリッド手術(結紮切除+ジオン注射)当院では、結紮切除術とジオン注射を併用したハイブリッド手術も行っています。これは、内痔核と外痔核(いぼ痔)の両方がある患者様、大小たくさんの内痔核がある患者様(大きい内痔核は結紮切除、小さい内痔核はジオン注射)、ジオン注射だけでは効き目のない大きな内痔核のある患者様を対象にしています。
外痔核について
外痔核とは、肛門の歯状線の外に生じたいぼ痔です。激しい運動をしたり、急に重い荷物を持ち上げたりした後などに突然血の塊が肛門に生じ、腫れて痛みが出ます。そのほかにも下痢や便秘、飲酒や冷えが原因なこともあります。
外痔核の治療は、軟骨や座薬、もしくは内服薬などの薬物療法が中心です。しかし,内痔核を合併している,症状が長引いている、大きくて痛みが強いという場合は切除するか、血の塊を取り除く必要があります。手術療法を行う場合は、一般的には結紮切除術になりますが,当院では札幌の石山先生が開発したACL手術を導入し,内外痔核を元どうりに治す治療を行っております。
裂肛
裂肛とは
裂肛とは、肛門上皮が便秘や下痢が原因で切れてしまい、痛みや出血を伴う状態で、切れ痔とも呼ばれています。
裂肛には、排便時に出血や痛みが生じるものの傷自体は浅いので、数日で回復する急性裂肛と、裂肛を繰り返すことで傷が深くなり、やがて潰瘍になる慢性裂肛の2つのタイプがあります。なお慢性裂肛の場合は、痛みが持続し、傷の内側に肛門ポリープ、外側にイボを形成することもあります。
治療について
治療は、薬物療法による排便のコントロール、軟骨や座薬による治療が中心ですが、慢性裂肛の多くは手術療法になります。症状によって施術は異なりますが、軽度であれば肛門拡張術・側方内括約筋切開術、重度な場合は肛門狭窄形成術を行います。いずれも日帰りによる手術となります。
- 側方内括約筋切開術
- 裂肛の原因でもある肛門括約筋を一部切除する手術です。過度な肛門括約筋の緊張が裂肛を起こしているので、一部を切り離すことでその緊張を解消する目的で行います。この場合、肛門ポリープやスキンタグも発生していることが多いので、併せて切除します。
- 肛門狭窄形成術
- 裂肛が慢性化したことで、肛門の狭窄が進んでしまった際に行われる手術です。肛門括約筋の一部を切開することで狭窄状態に部分を解消し、切除した部分には皮膚を移植します。
あな痔(痔瘻)
あな痔とは
あな痔(痔瘻)とは、肛門周囲膿瘍※が進行した状態で、自潰(はぜること)したり、切開排膿されたりして瘻管(トンネルのようなもの)ができた状態です。瘻管が塞がって膿が排出されないと腫れや痛みが出ますが、膿が出て通りが良くなると症状はなくなります。
病状によってあな痔は、皮下痔瘻(1型)、筋間痔瘻(2型)、坐骨直腸窩痔瘻(3型)、骨盤直腸窩痔瘻(4型)に分類されますが、それぞれがさらに細分化しています。
※肛門周囲膿瘍:肛門内部にある肛門腺という部分に、細菌が入り込むことで化膿し、肛門部とその周辺の皮下、粘膜下、筋間などに膿が溜まった状態。
あな痔の治療について
あな痔の治療は手術が基本です。手術では、痔瘻の入り口である原発口の切除と感染の原因となった原発巣(肛門腺)の切除、そして適切なドレナージ(膿や浸出液などの排液が通る逃げ道)の作成が重要になります。患者様にとって日帰り手術が適切かどうかは、しっかり診察したうえで判断します。なお入院による手術が必要と判断した場合は、適切な医療機関を紹介します。
- 切開開放術
- あな痔が原因による瘻管が後方にある場合に行い、瘻管を切除して膿を出します。肛門括約筋を切開する範囲は大きくなりますが、完治する可能性は高いです。そのため肛門括約筋への影響が少ないと思われる症例の際に用いられる手術です。
- 瘻管くりぬき術
- 瘻管が側方あるいは前方にできている場合に行われます。肛門括約筋を切らずに瘻管をくり抜いてきれいにするという方法です。なお原発口側は閉鎖します。手術後のリスクは少ないですが、切開開放術に比べると治癒過程で治りが悪く、再発するおそれもあります。
- シートン法
- 瘻管に輪ゴムを通すことで時間をかけて瘻管を開放する方法です。切開開放術よりも肛門括約筋の損傷が少なくて済むという利点があります。完全に開放されるまでには時間が掛かり、場合によっては数ヵ月を要することもあります。他の手術法と比べると時間はかかりますが、再発率は低いと言われています。